自分がアクセシビリティ向上に力を入れる理由
いま自分は、担当サービスのアクセシビリティ向上を推進する「アクセシビリティタスクフォース」を率いる立場になっています(アクセシビリティタスクフォースについては AbemaTV ABEMA iOS版アプリのアクセシビリティ向上支援 | 事例紹介 | 株式会社コンセント で少し触れられています)。
現在、アクセシビリティ向上の文化やプロセスを社内に浸透させていくため、さまざまな施策を考え実行しています。
ただそうやって活動していくうちに、ふと気づいたことがありました。自分はなぜアクセシビリティ向上に力を込めているかという言語化をしていないことです。
アクセシビリティ向上の推進は、個人でやるには大変で、組織としてやっていくのが一番良いと思っています。
ただ、組織としてアクセシビリティ向上をやっていくように伝えていく中で、個人の思いというのは活動の原動力として大事だと思っています。ここをあやふやにしてしまうと、ふとしたときにくじけてしまい折れてしまう気がします。
自分がそうやってくじけて折れてしまわぬよう、ここで自分のアクセシビリティ向上に対する思いを言語化してみます。
元々の自分の考え
自分は元々「かけがえのないモノをつくる」というビジョンを持っています。
「かけがえのないモノ」の定義は自分の中でも完全に定まってはいないですが、現時点だと「社会インフラになるもの」を作りたいという考えです。
また高校生のときから HTML と CSS を書いてきた経験もあり「インターネットを基礎とした社会インフラをつくる」ことを自分の理想として掲げています。
その「インターネットを基礎とした社会インフラ」の中で、自分の基盤が HTML と CSS というのもあって、Web フロントエンドで貢献したいという考えを持っていました。
聴覚障害者からのサービスに対するツッコミ
さてここで、2 年前の Japan Accessibility Conference digital information vol.2 (以下、JA11YC) での体験を話します。
ABEMA Prime という番組内で、かつて 補聴器ユーザーの苦悩と葛藤 (リンク先では期限切れで動画視聴できず)というテーマを取り上げたことがありました。
この番組を放送したあと、聴覚障害者の方から「字幕をつけないのはなぜか。聴覚障害者を排除することに自覚がないのか、自覚があってもやるべきことをしていないのはなぜか(要約)」といった意見をもらいました。
そしてこの意見を書いた人が、JA11YC の場にいてそこで話をしました。
話した内容自体は 2 年前ということもあり忘れてしまっています(これに関しては申し訳ないです)。
ただ、ここで自分は「サービスを楽しめない人を出してしまうなんて自分で自分が恥ずかしい」という気持ちになり、サービスのアクセシビリティ向上をやっていくという思いを強くしました。
視覚障害者を誘導する体験
そして JA11YC に参加した帰りに、視覚障害者の人を渋谷駅まで誘導する機会がありました。どういう流れで誘導することになったか詳細は思い出せないですが、自分から手を挙げた気がします。
ただ誘導するのは初めてということもあり、果たしてちゃんと誘導できるのか少し緊張しました。
渋谷の道玄坂のほうは点字ブロックがほとんどありませんでした。そのため、点字ブロックに沿って歩けず、ほぼ自分に頼って歩かないといけない状況でした。なので自分は口頭でいまどの辺りにいるかを、場所の名前や道路の形状なども交えつつ案内しました。
結果的にはなんとか渋谷駅まで誘導することができて、電車に乗ったところまで確認しました。
誘導し終えたあとは、正直いつもは感じない疲れを感じましたが、「視覚障害者を誘導して気づいた点」で後述するように自分の中では良い経験でした。
なお道中で前から来た人がすれ違おうとしたときに、あまり避けずに軽く肩を当てた後こちらが悪いかのように軽い舌打ちをしたときは、イラッとしました。
相手側ももしかしたらイライラしていたとかで気持ちが良くなかったのかもしれないですが、それでもそれを自分に向けないでほしいという気持ちでした。
視覚障害者を誘導して気づいた点
この経験は自分があまり意識してこなかった点に気付かされたという意味で、良い経験でした。気づいたことを挙げると次の通りです。
- 渋谷駅周辺に点字ブロックがない箇所が多い。駅内は割とあるが、路上には無いほうが多い
- 渋谷駅周辺の道路は人の多さに対して歩道が狭かったり分かれ道があったりで、視覚障害者に限らず自分も歩きづらい
- ハロウィンみたいなイベントがあったときなんかはもう……
- ざわざわしているところを歩くのは、歩くのに必要な手がかりが聞きづらくなるという意味で大変そう
- 歩いているときに前から来た人が避けてくれるとは限らないのが、大変そう
- 前述のカンファレンスに参加するために行きはタクシーで来たということで、タクシー代がかかる場面が多そう
自分が気づいていなかっただけで、不自由な部分は多く転がっているのを感じました。この経験が元となり、せめて自分が関わるところはアクセスしやすくしたいと考えるようになりました。
なぜ、いまの会社・サービスでアクセシビリティ向上をやるのか?
自分の考えとしてはこれまで書いた通りですが、ではなぜ、いまの会社・サービスでアクセシビリティ向上を推進するタスクフォースを作ってまでアクセシビリティ向上を推進しているのでしょうか?
その理由としては、最近会社でパーパスが発表されたことにあります。
パーパスは存在意義を示すものです。発表されたパーパスは「新しい力とインターネットで日本の閉塞感を打破する」という内容で、アクション的な項目の中に「新しい未来のテレビ ABEMA を、いつでもどこでも繋がる社会インフラに」があります。
そうです、会社として ABEMA を社会インフラにすることを明言しています。これによって、自分のビジョンと会社の向いている方向が合致していると感じるようになりました。また、アクセシビリティタスクフォースを立ち上げたときに「いつでもどこでも繋がる」というのは考えていて、それが会社としても明言されるようになり嬉しくなりました。
これらを踏まえて、いまの会社・サービスでアクセシビリティ向上を推進していき、やがては担当サービス外にも影響を及ぼせる様になりたいと思いました。
アクセシビリティ向上を推進する上で気をつけていること
Webエンジニアとして いま知っておきたい Webアクセシビリティというスライドにも書かれているように、特定の個性・状況・環境だけを考えて倫理観に訴えるのではなく、自分も含めたみんながもっと便利に使えて、結果ユーザーが増えていくようなベストな方法を考えていくことを意識しています。
アクセシビリティ “対応” と書くと後ろ向きな感じになりがちなのと、特定のユーザー向けに特別対応をすると捉えがちというのもあるので、前向きにやれるようにアクセシビリティ “向上” を一貫して使うのも気をつけている点です。
また自分たちだけでアクセシビリティ向上をやれるところからやっています。例を出すと WCAG の達成基準を満たしているかチェックしたり、アプリを VoiceOver や TalkBack を有効にした状態で触ってみたりなどといったことはやってきました。
ただ自分たちだけでは留まらない領域もあります。例を出すと字幕対応などが最たる例でしょう。
そういった部分では自分たち以外の社内の人ともっと対話して、お互いにとってベストな物を出していきたいと考えています。
なお、いまも自分たちだけで話を閉じているわけではなく、Slack のチャンネルでアクセシビリティについて話したり考えたりするチャンネルはあり、そこである機能のアクセシビリティをより良くするための相談などがされます。
しかし相談されるなどといった受動的なコミュニケーションだけでなく、能動的なコミュニケーションをより取っていこうと考えています。